お葬式こぼれ話

 

昔、大変お世話になった、
某葬儀社のK社長の若い頃のお話です。

 

あや子

それを、非常にマイルドな言葉に変換してお届けします

背中が冷たかった日

 

その日は特にいそがしいこともなく、会社の倉庫で整理などをして過ごしていたそうです。

 

そんなところに、納棺に向かったはずの同僚から事務所経由で「すぐに来てくれ」との呼び出しが。

 

まだ、携帯電話などなくポケベルさえも存在しない時代です。

 

折り返し電話して、詳しい事情を聞くことなどできません。

 

何事かとあわてて駆けつけると、集合住宅の踊り場付近で、同僚二人が棺を支えて立ち往生していました。

 

どうやら、上階の部屋で亡くなった方を、ご自宅で納棺したあと階下に下ろそうとして、踊り場の壁に棺の角がつっかえて、どうにもこうにもならない事態となったようです。

 

秋風が心地よい季節にもかかわらず、同僚二人は汗だくで途方にくれていました。

 

三人寄っても文殊の知恵は得られず、結局は棺を開け、故人様を背負って1階の集会所まで移動し、そこで改めて納棺したそうです。

 

背負う役目は、背は低いものの体格はよかったK社長だったそうで、「亡くなった人っちゅうんはなぁ」と、その体験をしみじみと語ってくれました。

 

その語りを途中でさえぎり、
「なんで、最初から集会所で納棺なさらなかったんですか?」とたずねると、

 

どうやら当初、集会所のスケジュールに空きがなく、自宅でお葬式をするつもりが、急きょ集会所が使えるようになったために、式場を変更したからだそうです。

 

「ほんま、葬儀屋に就職して、えらい目にあったで」と、どこか昔を懐かしむご様子でした。

 

どうやら、それがK社長にとっての最初の「えらい目」だったようですが、

 

非日常体験は、それだけにはとどまらなかったようで、社長のうっそりとした語りは続きます。

 

その中の1つ。

葬儀屋さんのお仕事|新人だったK社長の、凍りついた日

 

集合住宅

 

先ほどと似たような話なのですが、やはりエレベーターのない集合住宅の上階から、棺ごと階下へ移動したことがあったそうです。

 

この時は、ご自宅で亡くなり、
通夜を自宅で行った翌日、集会所でお葬式を行う、というものでした。

 

K社長も、前回の記憶が脳裏をかすめ、階段を使って降りるのが無理なら、また背負うことになるかもなと、なんとなく覚悟はしていたそうです。

 

幸いなことに、階段の幅はせまいものの、構造的に踊り場の天井につっかえることなく、棺は無事、集会所の祭壇前に安置できたそうです。

 

後ろから心配そうについて来ていた親族も、ほっとした表情で棺のそばに近づきます。

 

ところが---

 

親族の見守る中、担当であるK社長が、うやうやしく故人のお顔が見られるように棺の小窓を開いて、
「っ!」と、驚いたそうです。

 

眠っているはずの故人様の姿が、そこにはありませんでした。

 

あるのは、純白の布団のみ---

 

さすがの社長も、その時は「肝が冷えたで」と言っていました。

 

その時の社長は、思わず棺の横を見て、さらに下側をのぞきかけて、すんでのところで冷静さを取り戻したそうです。

 

「人間っちゅうんは、ほんまに驚くと、アホな行動してまうで」と笑っていました。

 

ですが、その時は全身の血が凍り付いたかのような瞬間を味わったそうです。

 

すぐに冷静さを取り戻したとはいえ、次に頭に浮かんだのは「どこかで落としてきたか・・・!」という、ありえない考えだったそうで、少しも冷静ではなかったみたいです。

 

責任問題の方向に意識が突っ走り、あぶら汗までにじんだそうです。

 

種を明かせば、実は何のことはなく、

 

上階から棺を下ろす際に、垂直に立てて下ろす場面が何カ所かあり、故人様は小柄な高齢女性だったので、どうやら頭一つ分、体が足下のほうへとずれてしまったんだそうです。

 

そのため、小窓の位置にあったはずのお顔も、見えなくなっていただけの話でした。

 

「もう、お母さんったら、最後までおちゃめなんやから~」と、娘さん達がおどけた声をあげてくれ、

 

その後は、ご家族のくすくす笑いのなごやかな雰囲気の中、もう一度、ていねいに故人様の身なりと姿勢を整えてさしあげたそうです。

 

社長は心の中で、
「ちゃんとおってくれて、ありがとう」と思ったそうです。

 

そうやって無事、開式を迎えることができた、とのことでした。

 

昭和の時代のお話でした。

あとがき

 

芽生える双葉

 

この頃の、いわゆる団地は(5階建てなので)エレベーターもありませんし、若い子育て世代が暮らすことのみを想定して建てられていたようなもの。

 

実際、そうだったんだろうと思います。

 

当然、バリアフリーとは対極にあるような造りで、若い夫婦が高齢となった今、救急搬送にも苦労するそうですから、ましてや棺が通ることなど、当時は想定していなかったのでしょうね。

 

新しく建設された建物ならば、大物(家具・ピアノ・救急搬送用ストレッチャーなど)の使用を想定して作られていますが、昔からの集合住宅は、エレベーターも狭いので、要注意です。

 

仮に、古いタイプの集合住宅にお住まいの方が亡くなったとして、ストレッチャーなどで横たわったまま移動させられなくても、葬儀屋さんなら、なんとかしてくれます。

 

ただ、その「なんとか」する手間に対して、対価が必要です。

 

相場的にも、数万円単位の追加費用がかかってしまうことは、理解しておくほうがいいでしょう。

 

親が団地住まいの方は、もしもの時にどうするか、ある程度シミュレーションしておいてください。

 

お葬式について早めに考えておくことは、こうした問題点にも、前もって気づくきっかけになります。

 

そうすると、葬儀費用のトラブルの大部分は未然に防ぐことが可能です。

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