こんにちは、三輪あや子です
少し大きなお葬式になると、必ずといっていいほど弔辞が入ります。
弔辞を引き受けた方々は、お葬式当日には準備万端整え、余裕をもって式場に来られるのが通常です。
何事にも例外はあって、ごくたま~にですが、そうでない方もいらっしゃいます。
今回はわたしが直接対応した、弔辞の書き方がわからず、顔面蒼白で飛び込んできた困った方のお話です。
この方の行動から、弔辞が書けずに困った際の正しい対処法をお伝えしたいと思います。
体験談なので、プライバシーに配慮し、シチュエーション等に脚色を加えています
はじまりは朝の電話・・・やだ、不吉!
早朝に電話が入ってくるのは、たいていお葬式関連、かつ次の仕事のオファーなのですが、その日は微妙にずれた朝8時過ぎ・・・。
コーヒーを飲みながらメイクしていたのに・・・何事だいッ、とケータイを見ると、これから向かう予定のH葬儀社からでした。
妙な感じを受けながら電話に出てみると、通夜を担当した喪家のことでした。
その喪家の関係者が、早朝から司会(わたし)を呼んでいる、とのこと。
(---な、なにごと・・・っ!?)
クワッと全細胞が覚醒しましたが、どうやらトラブルでもクレームでもないようで、肩から力が抜けました。
聞けば、朝いちばんで来館した男性がいて、司会に相談事があって待っています、とのこと。
(・・・なんだよ~、朝っぱらから~)
驚いて損した。
極度の緊張感から開放された反動で、態度がふてぶてしくなる、わたし。
三輪「・・・わたしがそっちへ行くの11時なんだけど」
H社「ああ、はい。そう伝えましたけど、待っているそうですよ~。一応、お伝えしておこうと思いまして」
三輪「用件は?」
H社「それが、司会者に直接相談したいから、とおっしゃっているそうです」
ふーん・・・。
ふーーーーん。
早い時間から式場に来て、今か今かと司会者を待ちかまえ、用件を言わないで、神妙にひたすら「待ち」の姿勢・・・。
実に、思い当たる、この感じ。
まあ・・・何となく、押しかけ男性の用件は想像がつきました。
過去にも、わたしが葬儀会館に到着し、書類などを持って式場に入るやいなや、どこからともなく現われた男性に「あ、あのぉ」と声をかけられることがありました。
やや青ざめた顔に、むりやり微笑をはり付けて、「弔辞がうまくまとまらなくって・・・ちょっと見てもらえませんかね。これ、どうですかね!?」と、十数枚の下書きを押しつけてくる、というパターンです。
どうですかって・・・知らんがな。
と、突き放すこともできず、結局は手伝うことになった案件が、過去十数年の間に3件。
これが多いのかどうかはわかりませんが、今回も同様の用件ならば、4件目となります。
(ちなみに、他の司会者は1回もないそうです)
とりあえず、手早くコーヒーを飲み干して、メイクを仕上げて、出かける用意をしました。
あ・・・え、突進してきます!?
H葬儀社へは、車で約20分で到着。
事務所で書類をピックアップして式場へ向かうと、ロビーに面した大ホール最後列の座席に、腰をかけた男性の姿が見えました。
遠目にも大柄なことがわかります。
お葬式は1時からの開式なので、この時間帯はフロア全体が静まりかえっています。
会葬者はもちろん親族の姿さえ式場にはありません。
お棺も親族控え室に移動しているので、式場は完全に無人です。
祭壇のスポットライトのみで、全体の照明を落とした式場で、ひたすら手元で書き物をしているその姿は、しょんぼりと肩を落としているようにも見えます。
とりあえず司会台に荷物を下ろし、さりげなく声をかけようかと思っていたところ、ガタッと何かがぶつかる音がするなり、大柄な礼服姿がすでに立ち上がってこちらに向かってきます。
思った以上に大きな方です。
威圧感マックスです。
タックルかまされるんじゃないかと、思わず後じさる、わたし。
そのお顔は、本来なら優しげなのでしょうが、いかんせん今は切羽詰まっているためか、ちょっと怖いです。
特に初対面では・・・。
そして、手には二つ折りの紙束が・・・ええ、握られていますね。
これは、もしかすると4件目の発生でしょうか。
その間も、大股でぐんぐん近づいてくる彼に、極上の笑顔で「おはようございます」と迎えたものの、わたしの(さわやかな)挨拶など、どうでもいいご様子。
「あの、あの、実は司会者さんに折り入って相談したいことがありまして、ですね、実は、私、あ、私、佐藤(仮称)と申します。あの、実は今日のお葬式で弔辞を~~~」
やはり4件目でした。
絶対に引かない姿勢・・・リアル崖っぷちな人
広い式場の流麗な花祭壇の中央には、40代の若さで旅立った故人の、かつての、はつらつとした笑顔の遺影が浮かび上がっています。
その故人の大学時代の後輩にあたるのが、本日、弔辞を読む佐藤さんでした。
大学で同じ運動部に所属していた佐藤さんは、社会人になってからも何かと目をかけてくれていた、恩義ある先輩の突然の訃報に、出張先から直接、駆けつけたそうです。
通夜式には間に合いませんでしたが、焼香をした後、棺の中の先輩(故人)と、ゆっくり顔を合わせることができた、とのことでした。
そして、その場に残っていた他の先輩方と親族とが話し合い、一番可愛がられていた佐藤さんが、代表として弔辞を読むことが決まったそうです。
もちろん、佐藤さんは謹んで引き受けたそうです。
そこまでは、よかったんです。
ところが帰宅してすぐに弔辞の作文に取りかかったものの、一向に文章がまとまらず、下書きを量産するだけで夜が明けてしまい、困り果てて葬儀会館に駆け込んだ、ということです。
ちらりと見上げると、佐藤さんはスッと目をふせ、「これ、これなんですけどねっ・・・」と、じゃっかん早口です。
まだ「見せろ」とも「手伝う」とも言っていないのですが、バタバタと下書きの便せんを広げたて、「さあ、よく見てくれ、さーあ、どうぞ!」と言わんばかりに、せまい司会台の上に並べる、巨体の佐藤さん。
ぐいぐい、来ます。
お断りのセリフを絶対に言わせない構えです。
お葬式には遠方のOBも大勢が参列するとのことで「ヘタな弔辞は読めない」「責任重大」「どうしよう」と鬼気迫る勢いで、下書きを押しつけてきます。
まあ、時間的余裕がなく、厳しかったことは確かですが、こうなる前に、だれかに相談することはできなかったのでしょうか。
巨体をくぐめ、わたしによく見えるように下書きを差し出しつつ、チラチラこちらの顔色を気にしています。
あせってどもりがちになっている様子を見るに、切羽詰まりながらも、余計な仕事を押しつけようとしている自覚はあるようです。
(---ま、いいか)
と、並べられた下書きに目をやり、文字を追います。
見ると、数々のエピソードが散文形式にそれなりにまとめられていて、特に文章崩壊しているわけでもありません。
ただ、エピソードが盛りだくさんで、ついでに、文章の起承転結が無視されているだけのことでした。
エピソードが箇条書きの状態でないだけ、まだマシかもしれません。
これなら、2時間もあれば、なんとかなるかな・・・
わたしにも自分の業務があるので、付きっきりで文章作成のお手伝いするわけにはいきません。
とりあえず親族が押さえている寺院控え室を開放し、佐藤さんには、そこで作業をしていただくことにしました。
まず、山積みのエピソードをバランスを考えながら3つほどに絞り込み、それを時系列につないでいきます。
さらに文章全体を、導入・主題・結び、という流れにまとめるため、次のような『書き方ガイド』を参考にしてもらいました。
- はじめの挨拶
「弔辞 ◇◇◇◇さんの御霊(みたま)に謹んでお別れの言葉をささげます」 - 訃報を知った時の気持ち
(簡潔にまとめます。) - 故人との思い出
(故人の人柄がしのばれるエピソードを2つ3つ) - 故人への語りかけ
(感謝の気持ちや、残された者の決意や誓いなど) - お別れの言葉
「◇◇さん、どうぞ安らかにお眠りください」 - 日付・自分の名前
(和暦での日付、◇◇代表・名前)
これを自分に当てはめて、適当にアレンジしながら書いてもらうことにしました。
「う~ん」と考え込む佐藤さんに、「あとでいくらでも訂正できるので、今はとりあえず難しく考えずにサクサク書いてってください」とお願いして、その間、わたしは遺族との打ち合わせへ。
読み終わった弔辞の取り扱いは?
遺族との打ち合わせでは、儀式の流れやポイントごとの動きを説明し、弔辞・弔電の読む順番や氏名の読み方などを確認していきます。
弔辞がある場合は、読み終わった後の弔辞の取り扱いについても、聞いておく必要があります。
いただいた弔辞を「そのまま納棺する」のか、もしくは「(遺族が)持ち帰るのか」ということをたずねるわけですが、多くは次の3つのパターンのいずれかです。
①弔辞の読み手側から「これは棺に入れてください」と頼まれ、遺族はからは「手元に残したい」という要望がある場合
⇒弔辞原本は棺に納め、コピーしたものを遺族用に残します
②弔辞の読み手側が、特に「原本の納棺」にこだわっていない場合
⇒弔辞原本を遺族に残し、コピーしたものを棺に納めることもあります
③弔辞の読み手側が、弔辞に関しては「遺族の方のご自由に」という場合
⇒弔辞原本を遺族に手渡し、その場で「納棺」か「持ち帰る」かを決めてもらいます。
この中で一番多いのは、3番目のパターンです。
いずれにしても、弔辞の送り主の意向と、遺族の気持ちをくみ取り、双方にとって納得いく形を考えるのも司会者の務めです。
この時も、遺族の方々に「どうされますか?」とたずねて、サクサク打ち合わせは進むはずだったのですが・・・
通常であれば、どのパターンを選ばれても、なんら問題ないのですが・・・
ないないづくしの、この人・・・どういうこっちゃ!
ところが!
故人に目をかけられた後輩、佐藤さんは、悲しいことに現在進行形で寺院控え室にこもって作文中です。
しかも、「式辞用紙はお持ちになっていらっしゃいますか?」との問いかけに、埴輪のように、ぽっかり目も口も開いたお顔で絶句されていましたし・・・。
どう考えても、正式な形の弔辞には仕上がりませんよね、これは。
そのダメダメな姿を前にしていると、なぜかハリセンが無性にほしくなります。
この葬儀会館では、筆と墨は用意できますが、奉書紙も式辞用紙も販売していませんし、そもそも毛筆で清書する時間的余裕もありません。
(半紙なら、あるけれど・・・お習字じゃあるまいし・・・)
ましてや、書き上げた文書をデータ化して、それを式辞用紙に印刷するプリンターサービスなどは(この当時もおそらくは現在も)行っていません。
つまり、仮にご遺族が「読んでいただいた弔辞は持って帰りたいと思います」となった場合、非常に困ったことになるわけです、佐藤さん的に。
---なぜなら、この場で完成させた弔辞は、とても遺族には見せられないシロモノだから・・・。
そういう事情もあって、もし親族から「弔辞は持ち帰りたい」と言われた場合は、こう伝えることになっていました。
「佐藤さんとしては、(なにがなんでも)先輩に持って行ってもらいたいとの気持ちが強いので、後日あらためてコピーしたものをお届けします」
と返事をする、というシナリオを、あらかじめ佐藤さんと話し合って決めていました。
とりあえず、ご遺族の希望を確認してみたところ・・・
喪主とその家族が違いに顔を見合わせ、しばらく話し合った後、
「ぜひ、持ち帰らせてください」
「落ち着いたら、またゆっくりと読み返したいですし、お仏壇にお供えしたいと思います」
とのことでした。
佐藤さん・・・完全にアウトです。
もちろん親族の方々は、佐藤さんが朝っぱらから来館していて、現在進行形で執筆中ということはご存じないので、
「承知いたしました。では、弔辞の方にも、そのようにお伝えしておきますね」
とだけ伝え、裏方で何が起こっているかは、伏せておきます。
そうやって、わたしはわたしで通常業務を行いつつ、佐藤さんの作文の進捗状況をハラハラ気にしながら、時間は過ぎていきました。
字がヘタでも清書は自分でやるべし
式場スタッフの献茶さんたちにも協力してもらい、寺院控え室も住職が来られるぎりぎりまで使えるようにしています。
葬家担当のスタッフ全員が気にする中、ようやく佐藤さんが鉛筆を置き、弔辞文章が完成しました。
開式の70分前。
上出来です。
急いで、(式辞用紙の代わりに)A4コピー用紙に縦書きで清書してもらいました。
一応、筆ペンも用意したのですが・・・
佐藤「え、私・・・筆ペンとかで文章書いたことないんで・・・あの、三輪さんに書いていただくということは・・・」
わたし「(イヤです。)ボールペンでもかまいませんよ。ご親族にお渡しするものではないので、自分が読めれば、それでかまいませんから。がんばって書いてください。時間もありませんし」
佐藤「あ、ああ、はい、そうですよね・・・」
三輪「(あたりまえじゃ)ニッコリ」
という、余計なやり取りもありましたが、あきらめてボールペンを握って書き始めた佐藤さん。
意外と几帳面な文字で、無事、弔辞全文を書き写されました。
白無地の封筒の表に筆ペンで「弔辞」と書き、たたんだ用紙を入れれば、完成!
まだ時間があったので、何度か読み方の練習をして、式場でシミュレーションも行うことができました。
すっかり落ち着きを取り戻した佐藤さんは、あらためて受付をすませ、親族に挨拶をし、最前列の弔辞者席で開式を迎えました。
本番に強いタイプなのか、しっかりとした足取りでマイクの前に立ち、スッと息を深く吸って第一声を発します。
まるで場数を踏んでいる会社役員なみに、ゆったりと落ち着いた声で、お世話になった先輩に感謝とお別れの言葉を伝えていらっしゃいました。
そして最後に付け足した、アドリブでの先輩への呼びかけには、多くの方がそっと目元をぬぐっていました。
佐藤さんが、座席に戻られた時には、スタッフ全員が思わずホッとしてか、微笑んでいました。
・・・無事、終わったァ。
終わりよければ・・・ま、いっか
お別れの儀式では、お花に包まれた故人の胸元近くに、佐藤さん自身の手で弔辞を入れてもらいました。
後日、親族へお届けする予定の弔辞(コピー)については、「毛筆で書いた立派な弔辞」というものに、妙にこだわっていらしたので、念のため、代書サービスの利用を提案しておきました。
代書屋さんというのは、本人に代わって文章を書いてくれるサービスで、毛筆での清書もやってくれます。
スマホが普及する以前は、繁華街や商店街に行くと、1軒や2軒は代書屋さんの店舗を見つけることができました。
今は・・・店舗は減って、代筆オンラインサービスを展開しているところが増えているようです。
字がヘタだったり、文章力に乏しい方には、かゆいところに手が届くありがたいサービスですね。
まあ、知っている人は知っている、という種類のお店です。
オンライン取材 最短24時間以内にお届け! >>葬儀挨拶代筆店公式サイト ある日、 親族や友人知人の訃報とともに、告別式での弔辞をお願いされたら? だれもが、一瞬、息を詰めると思 …
お葬式が終わり、出棺の葬列を見送った後、佐藤さんには、周囲が何事かと思うほどていねいにお礼を言っていただきました。
過分な謝礼を差し出されましたが「お気持ちだけ」とお断りしたところ、後日、葬儀会館に毛筆の礼状とゴディバの豪華なチョコレートが届けられ、ワーイ!でした。
仰々しさ満載の毛筆礼状には笑ってしまいましたけれど、とてもうれしかった記憶があります。
今から十数年前の出来事でした。
※この記事は、プライバシーを考慮して状況描写等を脚色編集しています。
この件に関して思うこと
弔辞の依頼というのは、その性格上、本当に突然のことが多いですし、完成させるための時間もあまりありません。
今回の佐藤さん(仮称)のように、やむを得ず司会者を頼ったとしても、手伝ってもらえることは、まれです。
この時は、たまたま社員が気を利かせて連絡してくれたこと、葬儀会館が近かったことで時間的余裕があったこと、それに加えて、弔辞が1本消えると「さみしい」と感じたこともあって、業務にさしつかえない範囲で手伝ったにすぎません。
要するに、佐藤さんは非常にリスキーな賭に出て、たまたま勝った強運の持ち主ってことですね。
マネしないでくださいね~
弔辞が書けない、間に合わなかったら、自分なら・・・どうする?
今は、佐藤さんの頃と違って、インターネットのサービスも格段に充実しています。
しかも、実店舗と違ってスマホさえあれば、オンラインサービスには24時間アクセスできます。
佐藤さんのように文章構成力に自信がない方は、一人で抱えこまず、誰かに相談したり、代筆サービスの利用に切り替えたりと、早めの対策が重要です。
葬儀当日になって、「できませんでした」と頭を下げることになれば、本人だけでなく、期待していた親族にとっても、大変な心残りとなってしまいます。
頼まれて引き受けたからには、そういう結末だけは避けたいですよね。
わたしが佐藤さんだったら・・・どうしただろう?
仮にわたしが佐藤さんの立場なら、どう行動していたか?
通夜で先輩方に「お前が弔辞を読め」との大抜擢(?)をされた時点で、わたしなら他のメンバーを巻き込みます。
先輩も同輩も後輩も、周りにいる関係者を集めて、皆に協力してもらって文章を練り、校正してもらいながら、一本の弔辞に仕上げたと思います。
場所は、ファミレスでも、式場の片隅を借りてもいいと思います。
葬儀会館は24時間出入りできるようになっているので、会館のスタッフに一言伝えれば、もしかすると、テーブルのある場所を提供してもらえるかもしれません。
自分ひとりでやり遂げるのも確かに立派ですが・・・時と場合で、あきらめも肝心。
あきらめて次の一手を考えるのも、また勇気だと、わたしは思うのです、ハイ。
佐藤さんにお伝えした、弔辞の書き方ガイドの進化版がこちらです。
興味のある方は、どうぞ~
今回は、弔辞の書き方を中心に、基本的なことをまとめています。 初めて弔辞を頼まれた方、頼まれる可能性のある方は、参考までにどうぞ。 弔辞って何?どういうものなの? …